僕は引越しの仕事が天職だと思っている。

今から25年前に、大阪市平野区にある市営住宅へ、
引越しの訪問見積もりに伺った。
時間は午後の13時、僕はいつも通りに5分前に現地に到着し、
一本の電話を入れる。

 

「こんにちは、◯◯引越しセンターです。
本日はお見積もり宜しくお願いします。
付近に着きましたがご都合は如何でしょうか?」

 

引越し業界に入って一年、
4トンドライバーとして作業をしながら引越しの営業も回り始めた頃です。

 

インターホンを鳴らす。

「◯◯引越しセンターの今井です。」
お客様「どうぞ中にお入りください。」

 

部屋は家族向けの広さで、お客様は70歳くらいの女性Aさんです。
玄関に入った瞬間にお線香の心地の良い香りがしました。

 

「はじめまして、本日はお見積もりのご依頼ありがとう御座います。」
Aさん「こちらこそ宜しくお願いしますね。」
「では、早速ですがお荷物の確認をさせて頂きます。」
Aさん「どうぞどうぞ。」

 

僕はそう言いながら、
お線香の香りがする一番奥の部屋にまっすぐに向かった。
そして、お仏壇に飾られた写真の男性を見た瞬間、
Aさんの亡くなった旦那さんだと直感で感じた。

旦那さんの事を愛してたんだ・・。
まだAさんと会って5分ほどなのに、
なんとなく旦那さんへの愛情が伝わってくる。

 

僕は条件反射的に仏壇の前に座り手を合わせ、

「これから奥さんの引越しでお見積もりをさせて頂きます。
最後までしっかり対応しますので安心して下さいね。」

僕は無意識にそう話していた。

 

立ち上がり、荷物の確認をと振り返った瞬間に、

「ありがとう御座います。
今回の引越しは宜しくお願いしますね。」

と、優しい笑顔でAさんに言われ、
本来なら、荷物の確認後に引越し内容の説明をし、
金額を提示して検討してもらう流れになるのに、
この時はたった10分で引越しのお願いをされ、
後から内容や金額を説明する事になった。

値引き交渉もなく、
僕の提示した内容を全く疑問に思うこともなく、
終始笑顔で1時間ほどお話をしました。
引越しの話が20分、後は旦那さんとの想い出話だった。

 

僕はお婆ちゃん子だったせいか、
Aさんとの時間はとても心地が良かった。
もう少しその場にいたい気持ちもありましたが、
次のお客様の見積もりもありましたので、
ご契約のお礼をして、部屋を出ました。

 

1時間ほど経った頃、会社から電話が入る。

会社「今井くん、
平野区のAさんからキャンセルの電話があったよ。」
「えっ!」

 

キャンセルになる事なんて考えてもなかったし、
駆け引きをする様なお客様ではなかったので、
予定を変更して、すぐさま平野区へ向かいました。

 

インターホンを鳴らす。

「こんにちは、◯◯引越しセンターの今井です。
度々すみません。」
Aさん「ごめんなさい。」

 

玄関に入った瞬間にさっきまで無かった紳士物の革靴に気づく。
他業者の営業マンか・・。
部屋に入るとスーツを着た40過ぎの男が座っていた。
いかにもベテラン営業マンって感じで、自信満々で表情にも余裕がある。

△△引越しセンターか・・。
対して僕は24歳で入社1年、引越し業界で言うとペーペー。

 

△△引越しセンターの営業マンは少し微笑みながら、

営業マン「さっきお断りの電話があったと思うが、
今回はうちの会社で引越しをさせてもらいますよ。」
「それはAさんの意志ですか?」
営業マン「もちろんお客様の意志です。
君の様な若い営業に任せるよりも、
私に任せてもらった方が何事もスムーズで良い引越しができるはずです。」

 

若気の至りか、その言葉にカチンときた!

「良い引越しをするのに、歳や営業経験は関係ありますか?」
営業マン「・・・」
「僕はAさんの引越しを最後までしっかり対応すると仏壇の前で旦那様と誓いました。
あなたは営業マンとして経験も豊富でしょうが、
当日の引越し作業もされるんでしょうか?
僕は引越し当日も作業をするつもりです!!」

 

ついつい言ってしまった・・。
セールスドライバーとして現場と営業を両立させているが、
この現場に行くドライバーを決めるのは配車係の仕事。
ペーペーの僕が勝手に決めれる事ではない。

 

僕の強い言葉に面を食らった営業マンが、返し文句を考えている。
経験豊富そうな風貌から、
きっとこの状況を打破させるだけのスペシャルな営業話術があるに違いない・・。

 

そんな緊迫した雰囲気の中、最初に声を出したのはAさんだった。

Aさん「今井さん、ごめんなさい。
実はあなたの会社以外に△△引越しセンターにも、
引越しの見積もりを頼んでいたの。
会社に頼むのは初めてだったから、
不安でつい2社にお願いしちゃって・・。」

 

相見積もりを取ることは、
ごく普通の事で、Aさんが謝る事ではない。

Aさん「今井さんに引越しのお願いをしたから、
△△引越しセンターにお断りの電話を入れたんだけど、
断り切れなくて・・本当にごめんなさい。」

 

隣で聞いていた営業マンが微笑でうなずいている。
僕がいくら啖呵を切ったところで、
決定権はAさんにあり、
最終的に頼んだのは△△引越しセンターなんだ。
と、その営業マンは言わんばかりの表情だった。

 

営業マンが勝利の宣告をしようと、僕の方を見た瞬間、

Aさん「△△引越しセンターさん、ごめんなさい。
今日はこれで帰ってもらえますか?」

 

そう言って、
三つ折りにした1万円札を営業マンに渡し、頭を下げる。

僕はビックリして、

「ちょっと待って待って!
そんな事をする必要はないです。」

Aさん「いいのいいの、私の責任だから。
今井さん、本当にごめんなさい・・。」

 

営業マンは勝てないと思ったのか、
Aさんの本当の意志が分かったのか、

「わかりました。」

 

とだけ言って、
厚かましくも1万円札を握りしめて帰って行った。

ベテランか何か知らないけど最低な営業マンだ・・と、
僕は心の中で思った。

 

Aさんは営業マンの帰りを見届けて、ホッとした表情で、

Aさん「今井さん、気を悪くさせてしまってごめんなさいね。
改めて引越しの予約をお願いできますか?」
「もちろんです!!」

 

帰社し、上司にキャンセルをひっくり返した報告をし、
事の流れを説明し、
当日の引越し現場には僕がドライバーとして行きたい事を伝えました。

引越し当日、
僕は自称晴れ男ですが、この日も快晴。
平野区で4トン車にしっかり荷物を積んで、
そのまま神奈川県まで移動。
途中、渋滞する事なく快調に進み、
予定よりも少し早めに到着しそうだった。

今回のお引越しは神奈川県に住む息子さんとの同居。
旦那さんが亡くなり、お母さんの事が心配になり、
息子さんの計らいでの引越しなのかな・・。
そんな事を考えながら、
もうすぐ到着する事を息子さんに連絡した。

 

遠くから大きく手を振るAさんが見える。
元気だな、70歳には見えないな。
なんだか分からないけど、テンションが上がる。

 

作業時間は約2時間、
しっかり丁寧に、
旦那さんと誓った事に嘘がない様に頑張った。

Aさん「ご苦労様でした。
今井さんにお願いして本当に良かった。
くれぐれも気を付けて帰って下さいね。」

 

そう言って、
僕が運転するトラックが見えなくなるくらいまで、
深々と頭を下げてくれました。

Aさん、
旦那さんはもういないけど、
これからは息子さんと幸せに暮らして下さい。
いつまでも、お元気で。

 

半年ほどが経ち、会社に一通の手紙が届きました。

手紙「◯◯引越しセンターの今井様へ。
先日お世話になったAの息子です。
あの後も母はとても喜んでいて、
感謝感謝って私に何度も何度も話しをしてくれました。
本当にありがとう御座いました。

母は最後に素敵な方に会えてとても幸せだった。
神様が最後にご褒美をくれたのねって。

そう言って、ひと月前に永遠の眠りにつきました。
実は余命半年の末期ガンでした・・。

 

「えっ・・。」

 

手紙「引越しって素敵な仕事ですね。
今まで引越しは物を運ぶだけの仕事だと思ってましたが、
母が嬉しそうに今井さんの事を話しているのを見ていて、
仕事に対しての考え方が少し変わりました。

私も営業職を長年務めておりますが、
契約をもらう事ばかり考えて、
その後、お客様がどうなって、どう感じてなんて、
あまり考えたことがなかった。
今井さんと出会えた事に私も感謝しないといけないですね。

たくさんの荷物を遠方まで運んで下さり、
母や私を幸せな気持ちにさせて下さって、
本当に感謝しております。

今井さんはまだお若いと思いますが、
何年経っても、今の今井さんでいて下さい。
大変なお仕事ですが、
体には十分気を付けてこれからも、
たくさんの幸せを運んでくださいね。」

 

入社一年、お客様からもらった始めての手紙。
仕事をしていて、
これまで感じたことの無い達成感や満足感で自然と涙がでました。
僕はこの手紙を今でも宝物にしています。

 

そしてこれが、

「僕に引越しの神様がやどった瞬間」

です。

 

あれから25年、
Aさんに出会うまでは引越しと言う仕事に対して、
特にプライドも、想いも無かった僕ですが、
大手引越しセンターを30歳で退職し、
平成15年に自社
「引っ越しのハッピードライブ」を設立。

僕に引越しの素晴らしさを気付かせてくれたAさんの気持ちを大切に、
これからも頑張っていきたいと思います。

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